アルコール依存症からの回復
アルコール依存症は、とかく、患者本人の意志の弱さや道徳観の欠如、社会人としての自覚のなさなどが原因と見なされて非難され、患者本人もそのような批判に後ろめたさを感じています。しかし、そのような人間的欠陥と見なされることの多くは、アルコールのもつ依存性によって強いられた病的な変化であることを、患者本人とその家族に理解してもらうところから、アルコール依存症の治療が始まります。それによって本人もアルコール依存症であることをはっきりと認め、アルコールを断つ決断をすることができます。
このように、アルコール依存症の治療は、身体的疾患としての治療の側面よりも、心の病としての治療の性格が強く、その点は、専門治療機関における治療プログラムの中の主要な治療法である「集団精神療法」と「内観療法」によく表れています。
集団精神療法は、院内の断酒会や地域の断酒会など自助グループのミーティングという形で行なわれます。参加した患者が各自の体験を全員の前で発表することが主な内容です。他人の体験談を聞くことにより、アルコール依存症の実態とそこからの回復について、第三者の眼で客観的に学習することができ、病気克服の意識を高めるのに役立ちます。
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内観療法は、もともと浄土真宗の修行法であったものを参考として生まれたものですが、宗教色は一切ありません。自分の幼いころからの対人関係を振り返り、人にしてもらったこと、人にしてあげたこと、人に迷惑をかけたこと、以上3点について当時の自分の行動をひとりで点検する作業です。人に対する感謝や償いの気持ちを再認識し、自己実現への行動修正を行なうことができます。
このほか、社会復帰に向けての治療的活動として重要なものに、ウォーキングやハイキングにも似た徒歩遠足があります。多くは「行軍」と呼ばれているようですが、「歩こう会」などさまざまな呼ばれ方をしています。目的地まで全員が落伍することなく徒歩で迅速に移動することにより、開放感・連帯感・達成感が得られるとともに、物事に取り組むときの真剣さや目的意識の大切さを再認識し、自己発見にもつながります。この「行軍」は、患者にもっとも好評の治療法であるとのことです。
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